公演延期シリーズ⑥

「小道具で遊ばないでくださいって言いましたよね」
「はい」
「次やったら吹き飛ばしますよ」
「それ40枚目にも確か」
「40代でしょ代表」
「昨日43歳になりました」
「少しは落ち着いてください」
「でも能沢君も一緒に遊んで…」
「アナタは能沢さんと同世代とでも?」
「昨日43歳になりました」
「さっきのまた同じ写真でしたかね?」
「平っつぁんはね、お客がいないとすぐ眠るのよ」
「…じゃあ稽古と本番で全然違うじゃないですか」
「許してやって。今日は…ほら」
「ああ…幻の公演初日ですね」
「間もなく開演、正確には」
「開演でした」
「残念ね」
「本当に」
「さ、今日も張り切って開場しないわよ」
「やけくそに朗らかですね」
「いいお天気だもの。舞台日和♪」
「寺嶋さんって晴れ女なんですよね」
「そうね、あんまり傘持たないわね」
「雨のときはどうするんですか?」
「えいやって念じるの」
「…えいや?」
「しばらく止むわよ」
「…えいや?」

「舞台上なら高速移動出来る代表と、天気を操れる参謀…この劇団、変」
「何言ってんだ、能沢君なんか稽古場ロッカーの半分をウルトラマンのジオラマにしてるぞ」
「…変」

「安心しろ。ここに入った時点で“類は友を呼ぶ”だ。君も同類に違いない」

「って代表がひどいこと言うんですー!」
「…そうね(私も思ってたなんて言えない)」
「しかも変な踊りしながら」
「…そうね(私も思ってたなんて言えない)」

「変な踊り…だと」
「聞こえてました?」 「この狭い稽古場で悪口聞こえないわけないだろ。しかも俳優の声は無駄によく通るし」
「褒めてたんですよ」
「え?」
「褒めてたんですよ。個性的だって」
「…まあ、いつも演出で“もっと変に”って言うもんね私」

「あたしなんか通し稽古のあとに“あんまり笑わせないで”って言われたのよ。おかしくない?」
「笑っちゃうんだって」
「笑ってるならいいじゃない」
「耐えられなくなってるのは共演者だ」
「おもに川端君と能沢君」
「撃墜王か」
「プルプル耐えてる姿が可愛いのよ」
「魔王か」
「天気も操れるわよ」

「もう何が起きても驚かなくなってきた…あ、代表からLINEだ」

「羅針盤の変にはすぐ慣れるよ」
「歴史用語みたいですね」
「元号パレードが懐かしい…あ、俺も代表から手紙だ」