「え? 能沢さんには手紙? この令和に手書きスタイル? あと60枚目過ぎてる? いつの間に?」
「って何で僕だけ手紙なんですか」
「スマホ、苦手だろ?」
「生まれた時代を間違えたぐらいに苦手です」
「だからだよ。正直…矢文と迷った」
「うちに狙撃したら張り倒しますよ…あの手紙って?」
「Zoomでミーティングしようと思ってな」
「じゃあ手書きでアドレス書くなや代表」
「Zoom会議なんて、うちみたいなアナログ劇団に出来ると思う?」
「出来る…といいな」
「希望的観測は絶望しか生まないわ」
「皆に会いたいんだ」
「じゃあなんでそんな顔してるの」
「後ろから見えない何かが“無理無理無理”って押してくるんだ」
「のんきーのスタンド攻撃ね。あたしには見えるわ」
「時間だ。Zoom会議に参加、と。………………………あたしだけだと?」
「それでは羅針盤Zoom会議を始めます」
「なんですかこの写真」
「イメージ映像だ。画面越しでも、心は密に」
「近すぎない?」
「ゼーレごっこしようって言ったの誰?」
「みんなひさしぶりー!」
「元気してた?」
「長田っち長崎じゃん!」
「後でルシくん大阪から参加したいって」
「ちゃこさんカナダじゃなかった?」
「帰国したけどそのままずっと自宅待機」
「大学が始まらない…」
「すいません僕電波怪しいんでカクカクです」
「ばぶ」
「11人いる…!」
「(あの、僕の声って聞こえてます?)」
「…ん?」
「(みんなの声も聞こえないんですけど)」
「…え?」
「やっぱり! 2個前の写真、10人しか喋ってなかったんです!」
「能沢君の台詞が無いってこと…?」
「でも画面の数もちゃんと10個だったわよ」
「11人いたんです!」
「そういえば木村さん、画面に向かって“いないいないばあ”してた!」
「あれは俺達にしていたわけじゃない…?」
「当たり前です!」
「結局グダグダだったわねZoom会議」
「予想通りというかなんというか」
「面目ない」
「おまけにツイートも止まるし。フリーズしたかと思ったわよ」
「いや、ちょっと追われてまして」
「めちゃ忙しかったんです」
「何に?」
「台本と台詞と○○」
「お仕事に追われてました」
「ありがたい」
「これで稽古場の家賃が払える…」
「大家さんに聞かれたよ。お仕事大丈夫?って」
「何て返したの?」
「95パーセント吹き飛んだ」
「正直すぎる」
「…滅びの日は近い」 「予言やめて」
「写真はイメージです」
「70枚目バンザイ」